英語学習においてさまざまな勉強法が提案されていますが、「オーバーラッピング」という手法をご存知でしょうか?名前だけは聞いたことがあっても、具体的な方法や効果について詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。「本当に効果があるの?」「時間の無駄なのでは?」といった疑問を持つ方もいるかもしれません。
本記事では、オーバーラッピングの基本概念から具体的なやり方、期待できる効果まで、初学者の方にもわかりやすく解説します。正しい方法で継続すれば、オーバーラッピングは英語力向上に大いに役立つ学習法であることがわかるでしょう。ぜひ最後までお読みください。
オーバーラッピングとは?基本を理解しよう

オーバーラッピングは、英語の文章(スクリプト)を目で見ながら、お手本となる音声と同じタイミングで発音する練習方法です。「オーバーラップ(Overlap)」という言葉には「重ね合わせる」という意味があり、その名の通り、ネイティブスピーカーの音声に自分の声を「重ね合わせる」ように発音します。
簡単に言えば、カラオケのように歌詞を見ながら、曲と一緒に歌うように英語を発音する方法です。スクリプトを見ながら行うため、文字情報と音声を同時に処理する練習になります。「カンペ付きのシャドーイング」と表現されることもあり、英語初心者でも始めやすい学習法として注目されています。
実践するために必要なものは、ネイティブスピーカーによる音声と、その音声のスクリプト(文字起こし)だけです。シンプルな学習法ですが、正しく行うことで多くの効果が期待できます。
オーバーラッピングは本当に効果があるのか?
「結局、オーバーラッピングって時間の無駄なのではないか?」と疑問に思う方もいるでしょう。結論から言えば、正しく継続して行えば、オーバーラッピングは非常に効果的な英語学習法です。
オーバーラッピングは主に次のような方に効果が高いとされています。
英語学習において「インプット」と「アウトプット」のバランスは重要ですが、オーバーラッピングはこの両方を同時に行える貴重な学習法です。聞きながら話すという行為を通じて、インプットとアウトプットを同時に強化できるのです。
ただし、どんな学習法も「正しいやり方」で「継続する」ことが成功の鍵となります。単に機械的に行うだけでなく、意識的に取り組むことで、オーバーラッピングは英語力向上に大きく貢献するでしょう。
オーバーラッピングとシャドーイングの違い
オーバーラッピングと混同されやすい学習法として「シャドーイング」があります。両者は似ているようで実は重要な違いがあります。ここでは、その違いを明確にしていきましょう。

スクリプトの使用の有無
最も大きな違いは、文字情報(スクリプト)を見るかどうかです。
- オーバーラッピング:スクリプトを見ながら行う
- シャドーイング:基本的にはスクリプトを見ずに行う
この違いにより、オーバーラッピングはシャドーイングよりも難易度が低く、英語初心者でも取り組みやすいという特徴があります。
発音のタイミング
もう一つの重要な違いは、発音するタイミングです。
- オーバーラッピング:音声と同時に発音する
- シャドーイング:音声を0.5〜1秒ほど遅れて「影(shadow)のように」追いかけて発音する
オーバーラッピングでは音声と完全に同じタイミングでの発音を目指すため、リズムやイントネーションを正確に捉える練習になります。一方、シャドーイングは聞いてから発音するため、瞬時の情報処理能力がより必要とされます。
学習効果の違い
それぞれの学習効果にも特徴があります。
- オーバーラッピング:発音、イントネーション、リズムの習得に特に効果的。スクリプトを見るため、スペルと発音の一致にも役立つ。
- シャドーイング:リスニング力の向上に特に効果的。視覚情報に頼らないため、純粋な聞き取り能力が鍛えられる。
どちらが優れているというわけではなく、学習の目的や段階によって使い分けるのが理想的です。初学者はオーバーラッピングから始め、慣れてきたらシャドーイングにチャレンジするというステップアップ方式も効果的です。
オーバーラッピングの主な効果
オーバーラッピングを継続して行うことで、どのような効果が期待できるのでしょうか。具体的には以下のような効果が挙げられます。
リスニング力向上の効果
オーバーラッピングがリスニング力向上に役立つ理由はいくつかあります。
まず、「自分で正確に発音できる音は、聞き取ることもできる」という原則があります。オーバーラッピングで正確な発音を習得することで、その音を聞き取る能力も自然と向上します。
また、英語音声に集中して聞く練習を繰り返すことで、単語と単語のつながり(リエゾン)や音の脱落など、実際の会話で起こる音声変化にも敏感になります。これにより、ネイティブの自然な会話でも英語の音を正確に聞き取れるようになるのです。
特に、「似ている単語を聞き間違えてしまう」「ネイティブの発音が正しく聞き取れない」などの課題を抱える学習者にとって、オーバーラッピングは効果的なトレーニング方法です。
発音向上の効果
オーバーラッピングの最も顕著な効果の一つが、発音の向上です。
ネイティブスピーカーの音声と同時に発音することで、自分の発音とネイティブの発音の違いがはっきりと分かります。この「ギャップ」を認識することが、発音向上の第一歩です。
また、オーバーラッピングを繰り返すことで、英語特有の口の動かし方や息の使い方が自然と身につきます。日本語と英語では舌や口の使い方が大きく異なるため、この点を意識せずに英語を話すと、どうしても「カタカナ英語」になってしまいます。
さらに、単語単体の発音だけでなく、文全体の抑揚やリズム、アクセントなども自然と身につきます。これにより、よりネイティブに近い、聞き取りやすい英語を話せるようになるのです。
スピーキングスピード向上の効果
英語を流暢に話すためには、適切なスピードで話す能力も重要です。オーバーラッピングはこの点でも効果を発揮します。
ネイティブスピーカーの話すスピードに合わせて発音することで、英語を素早く処理し、発話する能力が鍛えられます。最初はネイティブのスピードについていくのは難しいかもしれませんが、継続することで徐々に速く話せるようになります。
また、英語特有の「区切り」を意識できるようになります。英語では意味のまとまりごとに区切って話すため、この感覚をつかむことで、より自然なリズムで話せるようになります。
さらに、オーバーラッピングで英語の「音」に慣れることで、頭で日本語に翻訳してから話すという過程を省略できるようになり、よりスムーズに英語を話せるようになるのです。
オーバーラッピングの正しいやり方
オーバーラッピングの効果を最大限に引き出すためには、正しい方法で練習することが重要です。ここでは、初学者でも実践しやすいオーバーラッピングの具体的なやり方を解説します。
教材選びのポイント
オーバーラッピングを始める前に、適切な教材を選ぶことが重要です。
まず、ネイティブスピーカーによる質の高い音声が付いている教材を選びましょう。発音やイントネーションの正確さが重要なので、クリアで聞き取りやすい音声教材を使用することをおすすめします。
次に、自分のレベルに合った教材を選ぶことも大切です。「難しすぎず、簡単すぎない」ちょうど良いレベルの教材が理想的です。内容があまりにも難しいと、発音に集中できず挫折してしまう可能性があります。
また、自分の学習目的に合った教材を選ぶのもポイントです。ビジネス英語を学びたいならビジネス関連の教材、日常会話を学びたいなら日常会話の教材というように、目的に合わせて選ぶことで、学習のモチベーションも維持しやすくなります。
初学者の場合は、1〜2分程度の短い音声から始めるのがおすすめです。徐々に長さを増やしていくことで、集中力も持続しやすくなります。
練習前の準備
いきなりオーバーラッピングを始めるのではなく、まずは準備をしましょう。
最初に、選んだ教材のスクリプトをじっくり読み、内容を理解します。分からない単語や表現があれば調べておくことで、オーバーラッピング中に戸惑わずに済みます。
次に、一度音声だけを聞いてみましょう。どんなスピードで話されているか、どこで区切られているかなどを確認します。特に注意が必要な部分(速く話される部分や発音が難しい単語など)をチェックしておくと良いでしょう。
また、スクリプトに直接メモを取るのも効果的です。例えば、文全体の抑揚(上がり調子か下がるのか)や、聞こえない音には印をつけたり、音がつながって聞こえる部分にも印をつけたりすると、より正確にオーバーラッピングができるようになります。
実践方法
準備ができたら、いよいよオーバーラッピングの実践です。
- 音声を再生し、スクリプトを見ながら、音声と同じタイミングで発音します。最初は完璧に合わせるのは難しいかもしれませんが、徐々に慣れていきましょう。
- 音声のスピードに遅れないよう心がけます。ただし、無理に速く話そうとすると発音が不明瞭になるので、明瞭さを保ちながらスピードに合わせることを意識しましょう。
- ネイティブスピーカーの発音、イントネーション、リズムをできるだけ忠実にコピーします。特に英語特有の抑揚や強弱は意識的に真似るようにしましょう。
- 一度で完璧にできなくても気にしないことが大切です。同じ部分を何度も繰り返し練習することで、徐々に上達していきます。
- 可能であれば、自分の声を録音して聞いてみるのも効果的です。自分の発音とネイティブの発音を比較することで、改善点が明確になります。
継続するコツ
オーバーラッピングの効果を最大限に引き出すためには、継続することが何よりも重要です。以下は継続するためのコツです。
まず、毎日短時間でも良いので練習する習慣をつけましょう。5分でも10分でも、毎日続けることが大切です。
また、同じ教材を繰り返し練習することも重要です。1つの教材を完全にマスターしてから次に進むことで、着実に力がついていきます。
さらに、楽しめる教材を選ぶことも継続のコツです。興味のあるトピックや好きな映画のセリフなど、自分が楽しめる内容を選ぶことで、モチベーションも維持しやすくなります。
最後に、小さな進歩を認めて自分を褒めることも大切です。完璧を求めすぎず、少しずつ上達していることを実感し、自信につなげていきましょう。
オーバーラッピングの上達に役立つ補助トレーニング
オーバーラッピングだけでなく、関連する練習方法も併用することで、さらに効果的に英語力を向上させることができます。ここでは、オーバーラッピングと相性の良い補助トレーニングを紹介します。
リピーティング
リピーティングとは、英語の音声を聞いた後、一時停止して同じ内容を発音する練習法です。オーバーラッピングよりも取り組みやすいので、本格的なオーバーラッピングの前に取り組むと良いでしょう。
特に英語初学者には、まずリピーティングから始めることをおすすめします。音声を聞いて、その後に発音するので、音声と自分の声が重ならないため、自分の発音をより客観的に確認できます。
リピーティングは、音声のセンテンスごとにポーズを入れて練習することで、一文一文をしっかりと理解しながら発音する習慣がつきます。これにより、オーバーラッピングに移行した際も、内容を理解しながら発音できるようになります。
シャドーイング
前述したように、シャドーイングはスクリプトを見ずに音声を追いかけるように発音する練習法です。オーバーラッピングである程度慣れてきたら、次のステップとしてシャドーイングに挑戦してみましょう。
シャドーイングはリスニング力の向上に特に効果的です。視覚情報に頼らずに耳だけで英語を理解する力が鍛えられるため、実際の会話状況により近い練習となります。
ただし、シャドーイングはオーバーラッピングよりも難易度が高いので、いきなり難しい教材で始めるのではなく、オーバーラッピングで十分に慣れた教材から始めることをおすすめします。
音読
基本的な音読も、オーバーラッピングの補助トレーニングとして効果的です。音声なしでスクリプトを声に出して読むことで、自分のペースで発音練習ができます。
音読の際は、オーバーラッピングで学んだ発音やイントネーション、リズムを意識して読むことがポイントです。これにより、オーバーラッピングで身につけた発音の感覚を定着させることができます。
また、音読は場所を選ばずにできるため、通勤・通学中や隙間時間にも気軽に練習できるというメリットがあります。
ディクテーション
ディクテーションとは、英語の音声を聞き、その内容を書き取る練習法です。リスニング力と共に、スペリングや文法の理解も深めることができます。
オーバーラッピングと組み合わせることで、「聞く」「話す」「書く」の3つのスキルをバランス良く向上させることができます。特に、オーバーラッピングで使った教材を使ってディクテーションを行うと、より効果的です。
ディクテーションを行う際は、最初から全てを書き取ろうとするのではなく、徐々に難易度を上げていくことをおすすめします。例えば、最初は空所補充形式で始め、慣れてきたら全文書き取りに挑戦するという方法が効果的です。
オーバーラッピングに関するよくある質問
オーバーラッピングについて、初学者の方からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
- オーバーラッピングは毎日どのくらいの時間やるべきですか?
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時間の長さよりも継続することが重要です。5〜10分でも毎日続けることで効果が出ます。無理のない範囲で始め、徐々に時間を増やしていくのがおすすめです。慣れてきたら15〜20分程度の練習が理想的ですが、集中力が続く時間を見極めて調整しましょう。
- オーバーラッピングで使う教材は何がおすすめですか?
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初学者には、短い会話文や簡単なストーリーが収録されている教材がおすすめです。スクリプト付きの英語学習用教材や、英語学習アプリなどが便利です。また、NHKの語学番組や、初級者向けのポッドキャストなども良い教材となります。重要なのは、自分の英語レベルに合った、興味を持てる内容の教材を選ぶことです。
- オーバーラッピングとシャドーイングはどちらが効果的ですか?
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どちらが優れているというわけではなく、学習の段階や目的によって使い分けるのが効果的です。初学者にはオーバーラッピングの方が取り組みやすく、ある程度慣れてきたらシャドーイングに挑戦するという順序がおすすめです。また、発音やイントネーションの習得にはオーバーラッピング、リスニング力の強化にはシャドーイングというように、目的に応じて使い分けるのも良いでしょう。
- オーバーラッピングでうまく音声についていけません。どうすればいいですか?
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最初からネイティブスピードについていくのは難しいのが普通です。最初は音声の速度を少し遅くして練習するか(多くの音声アプリには速度調整機能があります)、より短い文から始めるとよいでしょう。また、事前にスクリプトをしっかり読み込んで内容を理解しておくことも大切です。少しずつ練習を重ねることで、徐々にスピードについていけるようになります。
- 効果が出るまでどのくらいの期間がかかりますか?
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個人差はありますが、毎日10分程度の練習を2週間ほど続けると、発音やリズムに対する意識が変わってきたと感じる方が多いようです。リスニング力の向上など、より顕著な効果を実感するには1〜3ヶ月程度の継続が目安となります。ただし、英語学習は長期的な取り組みなので、短期間で劇的な変化を期待するよりも、コツコツと継続することの積み重ねが重要です。
まとめ

この記事では、英語学習法としてのオーバーラッピングについて、その効果や正しいやり方を詳しく解説してきました。主なポイントを以下にまとめます。
- オーバーラッピングは、スクリプトを見ながらネイティブの音声と同時に発音する学習法
- 決して「意味ない」学習法ではなく、正しく継続することで大きな効果が期待できる
- 主な効果として、リスニング力の向上、ネイティブらしい発音の習得、スピーキングスピードの向上がある
- シャドーイングとの違いは、スクリプトを見るかどうか、発音のタイミングの違い
- 効果的な学習のためには、適切な教材選び、事前準備、正しい実践方法が重要
- 毎日短時間でも継続することが何よりも大切
- リピーティング、シャドーイング、音読、ディクテーションなど、相性の良い補助トレーニングと組み合わせるとさらに効果的
英語学習において、魔法のような即効性のある方法はありません。大切なのは、自分に合った学習法を見つけ、コツコツと継続することです。オーバーラッピングは、特に発音やリスニングに課題を感じる日本人英語学習者にとって、非常に効果的な学習法の一つと言えるでしょう。
この記事を参考に、ぜひオーバーラッピングに挑戦してみてください。正しい方法で継続することで、英語力の確かな向上を実感できるはずです。