英語学習者の間で「シャドーイング」という学習方法がよく話題になります。同時通訳者が訓練に使うこの技術は、英語力向上に効果的だと言われていますが、一方で「シャドーイングは意味がない」「効果が出ない」という声も少なくありません。特に英語初心者の方は「難しくて続かなかった」「効果を実感できなかった」という経験をお持ちかもしれません。
この記事では、シャドーイングの本当の効果と正しいやり方、そして初心者が効果を実感するためのポイントを徹底解説します。シャドーイングが「意味ない」と言われる理由を理解し、それを乗り越えて英語力を効果的に伸ばす方法をご紹介します。
シャドーイングとは?基本を理解しよう

シャドーイングとは、英語の音声を聞きながら、0.5秒ほどの短い遅れでそれを真似て発音する学習方法です。話者の「影(シャドー)」のように後ろから追いかけるイメージから、この名前が付けられています。
この方法の特徴は、耳と口を同時に使うことで、英語の音声を直感的に捉える力を養う点にあります。単に英文を暗記して話すのではなく、リアルタイムで聞いた音をそのまま再現することで、英語特有のリズムやイントネーションを体で覚えていきます。
シャドーイングは元々、プロの同時通訳者が訓練のために開発した方法ですが、今では一般の英語学習者にも広く取り入れられています。特にリスニング力や発音の向上に効果があるとされています。
シャドーイングと似た学習法の違い
シャドーイングと混同されがちな学習法として、「リピーティング」と「音読」があります。それぞれの違いを理解しておきましょう。
- リピーティング:ある程度まとまった英文を最後まで聞いた後に、記憶を頼りに再現する方法です。シャドーイングよりも記憶力が求められ、文章全体を理解する力が鍛えられます。
- 音読:テキストを見ながら声を出して読む練習法です。自分のペースで進められるため、初心者にも取り組みやすい特徴があります。
- シャドーイング:音声を聞きながらほぼ同時に発音するため、リアルタイムの処理能力が求められます。リスニングと発音の瞬発力を鍛えるのに効果的です。
初心者の方は、まず音読から始めて、徐々にリピーティング、そしてシャドーイングへとステップアップしていくのがおすすめです。
シャドーイングの5つの効果
シャドーイングを正しく継続することで、さまざまな効果が期待できます。ここではその主な効果を5つ紹介します。
リスニング力が飛躍的に向上する
シャドーイングの最も顕著な効果は、リスニング力の向上です。シャドーイングでは英語の音声に集中して耳を傾け、その音を即座に再現しなければならないため、自然と英語の音に対する感覚が鋭くなります。
日本人学習者が「書いてある英語は分かるのに、聞くと理解できない」と感じる原因の一つは、英語特有の音のつながり(リエゾン)や音の脱落、同化などの現象に慣れていないことにあります。シャドーイングを通じて、こうした音の変化に対応できる力が身につき、ネイティブの自然な発話も徐々に聞き取れるようになっていきます。
発音とイントネーションが改善される
シャドーイングでは、ネイティブスピーカーの発音やイントネーション、リズムをそのまま真似るため、自然な英語の話し方が身につきます。
日本語と英語では音の仕組みが大きく異なります。日本語は「拍(モーラ)」を基本としたリズムですが、英語は「強勢(ストレス)」を基本としています。また、日本語には5つの母音しかありませんが、英語には20種類以上の母音があります。
シャドーイングを通じてこれらの違いを体感し、実際に発音することで、「カタカナ英語」から脱却し、より自然な英語の発音が身につきます。
スピーキング力が強化される
シャドーイングで培った発音とイントネーションの感覚は、実際の会話でのスピーキングにも大きく役立ちます。英語特有の表現や文法パターンを繰り返し練習することで、自分で話す際にも自然と言葉が出てくるようになります。
また、シャドーイングは「聞いてすぐ話す」というプロセスを何度も繰り返すため、英語で考えて英語で話す回路が脳内に形成されます。これにより、日本語から英語への翻訳プロセスが省略され、より自然なスピーキングが可能になります。
語彙力が自然に強化される
シャドーイングでは、単語をバラバラに暗記するのではなく、文脈の中で学ぶため、より実用的な語彙力が身につきます。特に単語と単語の自然な組み合わせ(コロケーション)や、フレーズ単位での表現を覚えられる点が大きなメリットです。
例えば、”take a look” や “make a decision” といった表現を文脈の中で繰り返し練習することで、単に「見る」「決定する」という意味だけでなく、自然な表現として身につきます。
英語の音への感度が高まる
シャドーイングを続けると、英語の音に対する感度が高まります。これは単に聞き取れるようになるだけでなく、音の微妙な違いやニュアンスも捉えられるようになるということです。
例えば、”can” と “can’t” の違い、”ship” と “sheep” の違いなど、日本人が聞き分けにくい音の区別ができるようになります。この感覚は、リスニングテストだけでなく、実際の会話でも非常に役立ちます。
シャドーイングが「意味ない」と言われる理由
シャドーイングは効果的な学習法ですが、「意味がない」「効果が出ない」と言われることもあります。その理由を理解し、効果的なシャドーイングにつなげましょう。
シャドーイングが効果的に機能しない主な理由としては、以下のようなものが考えられます。
- 基礎的な英語力が不足している状態で行っている
- 適切な方法で実践できていない
- 継続期間が短すぎる
- 自分のレベルに合っていない教材を使用している
それぞれの問題点について詳しく見ていきましょう。
基礎英語力不足での取り組み
シャドーイングは、ある程度の基礎英語力がある状態で行うと効果的です。最低限の語彙や文法の知識がないまま行うと、意味も分からず単に音を真似るだけになってしまい、効果が限定的になります。
特に初心者の方は、まず基本的な単語や文法を学んでから、シャドーイングに取り組むことをおすすめします。あるいは、非常に簡単な内容から始めて、少しずつレベルを上げていく方法も効果的です。
誤った方法での実践
シャドーイングの効果を最大化するためには、正しいステップを踏む必要があります。ただ闇雲に音声を追いかけて発音するだけでは、効果が出にくいのです。
例えば、事前に文章の意味を理解せずにシャドーイングを行ったり、発音やイントネーションに注意を払わなかったりすると、効果が半減してしまいます。また、難しすぎる教材に挑戦して挫折するケースも少なくありません。
継続期間の短さ
シャドーイングは即効性のある学習法ではなく、継続することで徐々に効果が現れてきます。1週間や2週間程度では大きな変化を感じにくいことも多いです。
効果を実感するには、最低でも1ヶ月、理想的には3ヶ月以上継続することが重要です。短期間で諦めてしまうと、「意味がない」という誤った結論に至ってしまう可能性があります。
不適切な教材選び
自分のレベルに合っていない教材を選ぶことも、シャドーイングが効果的に機能しない大きな理由の一つです。特に初心者が上級者向けの教材に挑戦すると、正確に聞き取れず、発音も追いつかないため、効果的な練習になりません。
まずは自分のレベルよりやや易しめの教材から始めて、8割程度シャドーイングができる状態で練習することが理想的です。
初心者向け:効果的なシャドーイングのステップ
初心者の方がシャドーイングで効果を出すためには、段階的なアプローチが重要です。ここでは、初心者の方でも無理なく取り組める6つのステップを紹介します。
ステップ1:英文の意味を理解する
まずは、シャドーイングに使う英文の意味をしっかり理解することから始めましょう。音声を流す前に、テキストを読んで内容を把握し、分からない単語があれば調べておきます。
意味を理解していないまま音だけを追いかけても、単なる「オウム返し」になってしまい、効果が限定的です。文章の背景や話の流れを理解しておくことで、より効果的なシャドーイングが可能になります。
ステップ2:テキストを見ながら音声を聞く
次に、テキストを見ながら音声を聞いてみましょう。この段階では、まだシャドーイングは行いません。目で文字を追いながら、英語の発音、リズム、イントネーションに注目します。
特に注意したいのは、文のどの部分が強調されているか、音がどのようにつながっているか、どこで区切られているかという点です。これらの特徴を意識しながら2〜3回聞くと良いでしょう。
ステップ3:区切って練習する
長い文章や難しい部分は、短く区切って練習します。一文ずつ、あるいはフレーズごとに区切って、繰り返し聞いて発音する練習をします。
例えば、”I’m going to the store to buy some groceries.”という文なら、”I’m going to the store” と “to buy some groceries” に分けて練習するイメージです。区切った部分ごとに納得いくまで練習してから、次に進みます。
ステップ4:オーバーラッピングを試す
オーバーラッピングとは、音声と完全に同時に発音する練習方法です。シャドーイングの前段階として効果的です。テキストを見ながら、音声と同じタイミングで発音することを意識します。
この段階では、完璧に同時である必要はありません。音声に少し遅れながらも、できるだけ近いタイミングで発音することを目指します。

ステップ5:テキストを見ながらシャドーイング
いよいよシャドーイングに入ります。最初は、テキストを見ながら行うと安心です。音声を聞きながら、0.5〜1秒ほどの遅れで発音します。
重要なのは、発音、リズム、イントネーションを真似ることです。特に強調される単語や、音のつながりに注意しましょう。自分の声を録音しておくと、後で確認できて効果的です。
ステップ6:テキストを見ずにシャドーイング
最終段階では、テキストを見ずに音声だけを頼りにシャドーイングします。これが本来の意味でのシャドーイングです。
最初はうまくいかなくても構いません。短い部分から始めて、徐々に長い部分にチャレンジしていきましょう。聞き取れなかった部分は、後でテキストを確認して復習します。
シャドーイングの2つの種類と実践法
シャドーイングには主に2つの種類があり、目的によって使い分けると効果的です。それぞれの特徴と実践法を見ていきましょう。
プロソディシャドーイング
プロソディシャドーイングは、英語の音声的特徴(発音、リズム、イントネーションなど)に焦点を当てたシャドーイングです。内容の理解よりも、いかに自然な英語の音を再現できるかがポイントになります。
実践法
- 文章の意味を事前に理解しておく
- 音の強弱、リズム、イントネーションに集中して聞く
- できるだけ同じ音の特徴を再現しながらシャドーイングする
- 特に強調される単語、音の上がり下がりを意識する
- 必要に応じて何度も繰り返し、細部まで真似る
英語らしい発音やリズムを身につけたい場合に効果的な方法です。特に、日本語と英語の音の違いを体感したい初心者にもおすすめします。
コンテンツシャドーイング
コンテンツシャドーイングは、英文の内容理解に重点を置いたシャドーイングです。音声を聞きながら意味を理解し、それを声に出すことを目指します。
実践法
- 文章のキーワードや構造を事前に把握しておく
- 内容を理解しながらシャドーイングする
- 単に音を真似るだけでなく、言っている内容をイメージする
- 意味のまとまりごとに区切って考える
- 自分の言葉で言い換えられるレベルまで理解を深める
リスニングの内容理解力を向上させたい場合や、情報処理能力を高めたい場合に効果的です。ただし、ある程度の英語力が必要なため、完全な初心者より少し英語に慣れてきた方に適しています。
シャドーイングを継続するためのコツ
シャドーイングは継続することで効果を発揮する学習法です。ここでは、無理なく続けるためのコツを紹介します。
短時間でも毎日行う
シャドーイングは一度に長時間行うよりも、短時間でも毎日続けることが効果的です。5分でも10分でも構いません。毎日同じ時間に取り組む習慣をつけると継続しやすくなります。
例えば、通勤・通学時や、朝の準備中、入浴前など、日常の中で少しだけ時間を確保して取り組むと良いでしょう。
自分の音声を録音する
自分のシャドーイングを録音して聞き返すことで、客観的に自分の発音やリズムを確認できます。最初は恥ずかしく感じるかもしれませんが、自分の弱点を知り、改善するために非常に効果的な方法です。
スマートフォンの録音機能を使えば、簡単に録音・再生ができます。録音した音声とオリジナルの音声を比較して、違いを確認しましょう。
レベルは徐々に上げる
シャドーイングを始めたばかりの頃は、非常に簡単な教材から始めることをおすすめします。8割以上ができる感覚で取り組むと、達成感が得られてモチベーションが維持できます。
徐々に文の長さや難易度を上げていくことで、無理なくスキルアップできます。あまりに難しい教材に挑戦して挫折するよりも、着実にレベルアップする方が効果的です。
同じ教材を繰り返す
新しい教材に次々と移るのではなく、同じ教材を何度も繰り返し練習することも大切です。特に、完璧にできるようになるまで繰り返すことで、発音やリズムが体に染み込みます。
同じ教材を5〜10回程度は繰り返し、ほぼ完璧にシャドーイングできるようになってから次の教材に進むと良いでしょう。
シャドーイングに最適な教材選び
効果的なシャドーイングのためには、適切な教材選びが重要です。初心者が教材を選ぶ際のポイントと、おすすめの教材を紹介します。
教材選びの5つのポイント
- 長さ:初心者は1〜3分程度の短い音声から始めましょう。長すぎると集中力が続かず、挫折の原因になります。
- スピード:自然なスピードよりやや遅めのものから始めて、徐々に通常スピードに挑戦するのがおすすめです。
- 内容の難易度:内容が理解しやすいものを選びましょう。専門的な用語や複雑な話題は避け、日常会話や基本的な内容から始めると良いです。
- トランスクリプト(文字起こし)の有無:特に初心者は、トランスクリプトが付いている教材を選ぶと安心です。わからない単語をすぐに確認できます。
- 興味のある内容:継続するためには、自分が興味を持てる内容の教材を選ぶことも大切です。好きなトピックだと、モチベーションが維持しやすくなります。
初心者向けおすすめ教材
初心者の方には、以下のような教材がおすすめです
- シャドーイング入門用教材:シャドーイング専用に開発された入門書は、段階的に難易度が上がる構成になっているため初心者に最適です。
- 基礎英語の音声教材:短くて簡単な会話や文章から構成されており、初心者でも取り組みやすいでしょう。
- 英語学習アプリ:スマートフォンのアプリなら、いつでもどこでも練習できて便利です。レベルごとに教材が用意されているものが多いです。
- 子供向け英語の音声:ゆっくりとした明瞭な発音で、シンプルな内容のものが多いため、シャドーイングの練習に適しています。
これらの教材は、初心者の方が無理なく始められるものばかりです。自分に合ったものを選んで、まずは気軽に始めてみましょう。
シャドーイングに関するよくある質問
シャドーイングについて、初心者の方がよく疑問に思うことについて回答します。
- シャドーイングの効果はいつ実感できますか?
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シャドーイングの効果は個人差がありますが、一般的には2〜3週間の継続で少しずつ変化を感じ始める方が多いです。具体的には、英語の音が聞き取りやすくなったり、発音に自信が持てるようになったりといった変化が現れます。
ただし、大きな効果を実感するには、3ヶ月以上の継続が必要と言われています。短期間で諦めず、地道に続けることが重要です。
- 1日にどれくらいの時間シャドーイングすべきですか?
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効果的な学習時間は、集中力を維持できる時間内に収めることが大切です。初心者の場合、1回5〜10分程度を1日1〜3回行うのが理想的です。
無理に長時間続けるよりも、短時間でも毎日継続することの方が効果的です。集中力が切れてくると効果が薄れるので、質の高い練習時間を確保しましょう。
- 聞き取れない部分があっても続けるべきですか?
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特に初心者の段階では、全てを完璧に聞き取って発音することは難しいものです。聞き取れない部分があっても、そこで止まらずに続けることが大切です。
時間をかけて練習するうちに、徐々に聞き取れる範囲が広がっていきます。最初から完璧を目指さず、少しずつ上達していく姿勢が重要です。
- シャドーイングだけで英語は上達しますか?
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シャドーイングは効果的な学習法ですが、それだけで英語の全てのスキルが向上するわけではありません。特に初心者は、基本的な語彙や文法の学習、読解練習なども並行して行うことをおすすめします。
シャドーイングは主にリスニングや発音、スピーキングの流暢さを向上させる効果がありますが、語彙力や文法知識は別途学習する必要があります。
- シャドーイングで挫折しないコツはありますか?
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シャドーイングで挫折しないためのコツとしては、
- 自分のレベルに合った教材を選ぶ
- 最初は簡単な短い文から始める
- 完璧を目指さず、できる部分だけでも続ける
- 達成感を得られるよう、スモールステップで進める
- 同じ教材を繰り返し練習する
- 自分の成長を記録する(録音など)
これらのポイントを意識して取り組むことで、無理なくシャドーイングを続けられるでしょう。
まとめ

英語シャドーイングは、正しい方法で継続すれば非常に効果的な学習法です。「意味がない」と言われることもありますが、それは多くの場合、適切なアプローチで実践できていないことが原因です。
初心者の方は特に、段階を踏んで少しずつレベルアップしていくことが重要です。以下に、本記事のポイントをまとめます。
- シャドーイングとは、英語の音声を聞きながら、わずかな遅れでそれを真似て発音する学習法
- 効果には、リスニング力の向上、発音・イントネーションの改善、スピーキング力の向上、語彙力の強化などがある
- 初心者には難しいと思われがちだが、適切な段階を踏めば効果的に取り組める
- 効果的なシャドーイングのためには、内容理解、適切な教材選び、継続的な練習が重要
- シャドーイングには、プロソディシャドーイングとコンテンツシャドーイングという主に2つの種類がある
- 効果を実感するには2〜3週間、大きな効果を得るには3ヶ月以上の継続が必要
- 短時間でも毎日継続することが、効果を得るためのカギ
シャドーイングを通じて、英語の音への感覚を養い、より自然な英語を身につけていきましょう。最初は難しく感じるかもしれませんが、継続することで必ず上達を実感できるはずです。英語学習の効果的なツールとして、ぜひシャドーイングを取り入れてみてください。