日本では当たり前のように使われている製品名でも、英語圏ではまったく別の意味に聞こえてしまうことがあります。特に「カルピス」や「ポッキー」などの人気商品は、海外では思わぬ理由で名前を変更して販売されているケースが多いのです。
この記事では、英語圏で言ってしまうと赤面してしまうような日本の製品名と、その背景について詳しく解説します。言語の違いによる思わぬ誤解を避けるために、知っておくと役立つ情報をお届けします。
英語圏で使えない日本の製品名の基礎知識

日本語と英語は発音体系が大きく異なるため、日本語の製品名が英語話者の耳に入ると、まったく違う単語として認識されることがあります。そのため、日本国内では何の問題もない製品名でも、海外ではブランドイメージを損なう恐れがあるのです。
多くの日本企業はこうした問題を回避するため、海外市場向けに製品名を変更しています。これはグローバルマーケティングにおける「ローカライゼーション(現地化)」と呼ばれる戦略の一部です。
消費者が商品に親しみを持ち、不要な誤解を避けるための重要な取り組みといえるでしょう。
日本企業が海外で製品名を変更する主な理由には以下のようなものがあります。
- 発音の類似性による誤解
- 現地の言語で不適切または否定的な意味を持つ場合
- 文化的・宗教的配慮
- 既存の商標との競合
- 現地市場への浸透しやすさ
カルピスとカルピコ:名前の背景と変更理由
日本を代表する乳酸菌飲料「カルピス」は、世代を超えて愛されてきた国民的飲料です。しかし、この名前はそのままでは英語圏で大きな問題を引き起こすことになりました。
カルピスの由来
カルピスという名前は、カルシウム(Cal)とサンスクリット語で「最高の味」を意味するサルピス(Sarpis)から作られたものです。この名前は、有名な日本の音楽家である山田耕筰(1886年~1965年)とサンスクリット語の専門家である渡辺海旭(1872年~1933年)に相談した上で選ばれました。
カルピスの歴史は非常に古く、創業者の三島海雲(1878年~1974年)が1908年に内モンゴルを訪れた際に始まります。長旅の疲れから体調を崩した三島に、現地の遊牧民が「クミス」と呼ばれる乳酸発酵飲料を勧めました。毎日飲み続けることで健康が完全に回復し、三島は乳酸発酵飲料のパワーに気づいたのです。
1919年7月7日(七夕)に日本初の乳酸飲料として発売されたカルピスは、2019年に100周年を迎えました。パッケージの水玉模様は天の川をイメージしたデザインで、初期は青地に白い水玉でしたが、1949年に色が逆転し、現在の白地に青の水玉になりました。
なぜ英語圏では「カルピコ」となるのか
日本では親しまれている「カルピス」という名前ですが、英語圏では「カルピコ(Calpico)」という名前で販売されています。この変更はなぜ行われたのでしょうか。
答えは発音にあります。「カルピス(Calpis)」を英語で発音すると、「Cow piss(カウ ピス)」つまり「牛のおしっこ」に非常によく似た音になってしまうのです。これは飲料として極めて不適切な連想を引き起こすため、英語圏では避けなければなりませんでした。
アメリカでの販売開始時、マーケティング担当者からこの問題が指摘され、最終的に「カルピコ(Calpico)」という名称に変更されました。現在、この製品は北米やアジアなど30カ国以上で販売されていますが、英語が一般的に使用されているアメリカ、カナダ、インドネシアの3カ国では「カルピコ」という名前で販売されています。
日本に旅行してきた外国人観光客が「カルピス」という名前を聞いて驚いたり、クスクス笑ったりする理由がここにあります。逆に、海外で「カルピス」を注文しようとすると通じないことがあるので注意が必要です。
ポッキーのネーミング問題
江崎グリコの代表的なお菓子「ポッキー」も、海外では名前の問題に直面した製品の一つです。
ポッキーとは
ポッキーは、細長いビスケットにチョコレートをコーティングした日本を代表するお菓子です。その独特の形状と食感で、1966年の発売以来、幅広い年齢層に愛されてきました。11月11日はその形状から「ポッキー&プリッツの日」として知られています。
名前の由来は日本語の擬音語「ポッキン、ポッキン」から来ており、ビスケットが折れる音を表現しています。この名前は日本では非常にわかりやすく、製品のイメージにぴったりですが、英語圏では別の問題がありました。
ヨーロッパでは「MIKADO」になった理由
ポッキーはヨーロッパ市場では「MIKADO(ミカド)」という名前で販売されています。これはなぜでしょうか。
その理由は「pox(ポックス)」という英単語にあります。この単語は「梅毒」や「水疱」などをイメージさせる言葉で、「Pocky(ポッキー)」という商品名のままでは「pox」を連想させてしまい、お菓子として好ましくない印象を与えてしまうのです。
また、ポッキーという名前は日本語の擬音語が由来となっていますが、擬音語の文化が異なる海外では馴染みが薄いという問題もあります。
「MIKADO」という名前は、ヨーロッパでメジャーな日本をイメージしたゲームから来ています。このゲームは41本の棒を使って行われるもので、その棒がポッキーに似ていることから、この名前が選ばれました。
その他の問題のある製品名
カルピスやポッキー以外にも、英語圏で言うと困った意味になってしまう日本の製品名がいくつか存在します。
コロンとグーン
「コロン(Collon)」はクリームとサクサクのビスケットが美味しいお菓子ですが、海外の「Colon(大腸)」と同じ音韻であるため問題があります。英語圏では体の内部器官である大腸を連想させてしまい、お菓子としては食欲をそそらない印象になります。
日本人にとっては「ころんころん」と転がるイメージですが、英語話者には内臓器官を思い浮かべさせるという文化的ギャップがあります。
「グーン(Goon)」は日本の子供用オムツブランドですが、英語で「goon」は「殺し屋、暴漢、まぬけ」を指すため、子供用製品の名前としては違和感があります。日本語では「グ〜ン」と成長するという意味合いがありますが、言葉の壁を超えると全く異なる印象になってしまうのです。
クリープとポカリスウェット
「クリープ(Creep)」はコーヒー用のクリーミングパウダーですが、少し綴りが異なるだけで英語では「気味悪い奴(creep)」になってしまいます。コーヒーに入れる製品としては不吉なイメージになってしまいますね。
「ポカリスウェット(Pocari Sweat)」は日本の人気スポーツドリンクですが、「スウェット」は英語で「汗」を意味するため、英語圏の人が初めて見ると「汗を飲む?」と驚くことがあります。実際には運動で失われた水分と電解質を効率的に補給できるように開発されたもので、その発想から名付けられました。
アジアやメキシコでは同じ名前で販売されていますが、初めて見る英語圏の人々には少し抵抗感があるようです。
次の表は、英語圏で問題になりやすい日本の製品名とその理由をまとめたものです。
| 日本の製品名 | 英語圏での問題 | 海外での名称変更 |
|---|---|---|
| カルピス | 「牛のおしっこ」に聞こえる | カルピコ(Calpico) |
| ポッキー | 「梅毒」などを連想させる | MIKADO(ヨーロッパ) |
| コロン | 「大腸」を意味する | (変更なし) |
| グーン | 「殺し屋、暴漢」を意味する | (変更なし) |
| クリープ | 「気味悪い奴」を意味する | (変更なし) |
| ポカリスウェット | 「汗」を飲むものに聞こえる | (変更なし) |
モスバーガーとディーププレッソ
「モスバーガー(MOS Burger)」は日本のファストフードチェーンですが、初めて聞く英語話者には「コケ(moss)バーガー」にしか思えません。実際には「Mountain(山)」「Ocean(海)」「Sun(太陽)」の頭文字を取ったMOSですが、このことを知らない外国人にとっては奇妙な名前に聞こえることがあります。
「ディーププレッソ(Deep Presso)」は「ディープエスプレッソ」を縮めた名称ですが、まるで「憂鬱(Depression)」を促してくれるコーヒーのように聞こえてしまいます。コーヒーの深い味わいを表現したかったのでしょうが、英語圏ではネガティブな印象を与えかねない名前です。
海外で名前が変わった日本のアニメ・映画・車
製品だけでなく、日本のアニメや映画、自動車なども海外では名前が変更されることがあります。その背景には言語や文化の壁があります。
ポケモンと天空の城
世界的に人気を誇る「ポケットモンスター」も、海外では単に「ポケモン(POKEMON)」というタイトルで販売されています。これは男性器を連想させるという理由からだと言われています。日本では問題なく使われているタイトルでも、英語圏では別の意味を持つことがあるため、こうした配慮が必要なのです。
宮崎駿監督の「天空の城ラピュタ」は、「ラピュタ」の部分がスペイン語の「淫売」にあたることから、単に「天空の城」というタイトルになりました。これは言語の壁を超える際に起こりうる思わぬ問題の一例です。
三菱パジェロはなぜモンテロになったのか
日本車の海外展開においても同様の問題があります。三菱の「パジェロ(PAJERO)」は、スペイン語だと「パヘロ(Pajero)」という非常に卑猥な言葉になってしまうため、「モンテロ(MONTERO)」という名前で売られています。
クオリティの高さから海外で人気を博す日本の商品は数多くありますが、世界に発信するためには言葉の壁も超えなくてはならないのです。そのため、海外市場では思いがけない名前変更が行われていることがあります。
英語圏での日本の製品名のよくある間違いと注意点
日本の製品名を英語圏で使用する際には、いくつかの注意点があります。特に旅行や留学、ビジネスでコミュニケーションをとる際に役立つ知識をご紹介します。
発音と和製英語の問題
まず、発音の問題があります。日本語と英語では発音体系が大きく異なるため、同じ単語でも聞こえ方が全く変わってしまうことがあります。例えば、「カルピス」を英語話者に言うと「牛のおしっこ」に聞こえるだけでなく、「ホットカルピス」になると「ホットな牛のおしっこ」という意味になり、さらに問題が大きくなります。
また、日本では普通に使われているカタカナ英語や和製英語が、英語圏では全く通じないことがあります。例えば、「ノートパソコン」は英語では「laptop PC」、「ブラインドタッチ」は「touch typing」、「アポ」は「appointment」、「ミス」は「mistake」、「クレーム」は「complaint」と言わなければなりません。
次に、日本人が発音しづらい英語の問題もあります。英語の発音では「促音(小さい「っ」)」を使わないことから、「Pocky」のような促音を含む単語を発音することが難しいとされています。これは日本人が英語を学ぶ際のハードルの一つです。
文化的な背景とコミュニケーションのヒント
文化的な背景も重要です。日本語の名前や単語が、英語圏の文化的背景において不適切な意味を持つことがあります。例えば、「Cora」という女性の名前は日本語では問題ありませんが、別の言語では違う意味になる可能性があります。
以下は、英語圏で使用する際に注意すべき日本の製品名や表現のリストです。
- カルピス → カルピコ(Calpico)と言う
- ポッキー → ヨーロッパではMIKADOと呼ばれる
- ホットカルピス → 英語圏では言わない方が無難
- 和製英語(アポ、ミス、クレームなど)→ 正しい英語表現を使う
- 促音(小さい「っ」)を含む単語 → 発音に気をつける
外国人に日本の製品を説明する際には、その製品の背景や歴史を知っておくとより深いコミュニケーションが可能になります。また、言葉の違いから生じる誤解についてはユーモアを交えて説明すると、相手も理解しやすいでしょう。
海外で浸透している日本語製品名
一方で、日本語のまま海外でも通用する製品名もあります。このような言葉は、日本独特の文化や感覚を表すため、あえて日本語のまま使われることが多いです。
食文化
例えば、食べ物の分野では「sushi(寿司)」「ramen(ラーメン)」「tempura(天ぷら)」「wasabi(わさび)」などが世界中で日本語のまま使われています。
これらは日本の固有の食文化を表す言葉として認知され、英訳されることなく世界に浸透しています。
伝統文化・スポーツ
伝統文化の分野では「kimono(着物)」「samurai(侍)」「ninja(忍者)」「bonsai(盆栽)」などが、スポーツの分野では「karate(空手)」「judo(柔道)」「sumo(相撲)」などが日本語として世界に認知されています。
サブカルチャー
サブカルチャーの分野でも「manga(漫画)」「anime(アニメ)」「kawaii(かわいい)」「otaku(オタク)」などの言葉が、日本のポップカルチャーの広がりとともに国際的に使われるようになりました。
特に「kawaii」は「21世紀に入って世界に最も広まった日本語」と言われており、日本の漫画やアニメの影響で海外に広まったと考えられています。
ビジネス
ビジネスの世界でも「kaizen(改善)」「nemawashi(根回し)」などの日本的な経営概念を表す言葉が、そのまま英語圏のビジネス用語として使われることがあります。
これらの言葉は、日本の独自性を表すものとして、あえて翻訳せずにそのまま使われる傾向にあります。このように、言語や文化の壁を超えて、日本の言葉や概念が世界に広がっていくのは興味深い現象です。
「英語圏で言ってはいけない日本の製品名」に関するよくある質問
- カルピスはなぜ英語圏で名前が変わったのですか?
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「カルピス(Calpis)」を英語で発音すると「カウピス(Cow piss)」つまり「牛のおしっこ」に聞こえてしまうためです。このため、英語圏では「カルピコ(Calpico)」という名前に変更されました。アメリカ、カナダ、インドネシアなど、英語が広く使われている地域では「カルピコ」の名称で販売されています。
- ポッキーがヨーロッパで「MIKADO」と呼ばれる理由は何ですか?
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「Pocky」という名前は英語の「pox」(梅毒や水疱などの病気)を連想させるためです。また、日本語の擬音語「ポッキン」は、擬音語の文化が異なる欧米では伝わりにくいという問題もあります。「MIKADO」はヨーロッパで人気のあるゲームの名前で、そのゲームで使用される棒がポッキーの形状に似ていることから選ばれました。
- 海外で問題になる可能性のある日本の製品名をチェックする方法はありますか?
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製品名を英語やその他の言語で発音してみて、現地語で不適切な意味や連想を引き起こさないか確認することが重要です。また、海外の言語や文化に精通した専門家に相談したり、現地での市場調査を行ったりすることも効果的です。多くの大企業は海外展開の前に、こうしたネーミングチェックを慎重に行っています。
- 日本の製品名が海外で変更される例は他にもありますか?
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はい、数多くあります。三菱の「パジェロ」はスペイン語圏で卑猥な意味を持つため「モンテロ」に変更されています。また、ジブリ映画「天空の城ラピュタ」はスペイン語圏では「ラピュタ」が「売春婦」を意味するため、単に「天空の城」というタイトルになりました。さらに「ポケットモンスター」も海外では別の意味を連想させるため「ポケモン」と呼ばれています。
- 英語圏で日本の製品について話す際に気をつけるべき点は何ですか?
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製品が現地でどのような名前で知られているかを事前に確認しておくことが大切です。例えばアメリカでカルピスについて話す場合は「カルピコ」と言うべきです。また、和製英語は通じないことが多いので、正しい英語表現を使うように心がけましょう。文化や言語の違いから生じる誤解についてはユーモアを交えて説明すると、相手も理解しやすくなります。
- カルピスがなぜ発酵乳飲料なのに「牛のおしっこ」に聞こえるのは皮肉ですか?
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偶然の一致ですが、確かに皮肉な面があります。カルピスの名前はカルシウム(Cal)とサンスクリット語で「最高の味」を意味するサルピス(Sarpis)から来ていますが、英語での発音が偶然にも乳製品由来の飲料を連想させる「cow piss」に近くなってしまいました。この言語的な偶然が、カルピコへの名称変更を必要としたのです。
- 日本語の製品名で海外でもそのまま受け入れられている例はありますか?
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はい、「sushi(寿司)」「ramen(ラーメン)」「wasabi(わさび)」などの食品名や、「manga(漫画)」「anime(アニメ)」「kawaii(かわいい)」などのサブカルチャー関連の言葉は、日本語のまま国際的に使われています。これらは日本の特有の文化や概念を表す言葉として、翻訳せずにそのまま採用されることが多いのです。
まとめ

この記事では、英語圏で言ってはいけない日本の製品名とその背景について詳しく解説してきました。言語や文化の違いにより、日本では問題なく使われている製品名が、英語圏では思わぬ意味に解釈されることがあります。
こうした問題を避けるため、多くの日本企業は海外市場向けに製品名を変更しています。主な内容をまとめると以下のポイントが重要です。
- 「カルピス」は英語圏では「牛のおしっこ(Cow piss)」に聞こえるため、「カルピコ(Calpico)」という名前で販売されている
- 「ポッキー」はヨーロッパでは「pox(梅毒、水疱)」を連想させるため、「MIKADO」という名前で売られている
- 「コロン」は英語の「colon(大腸)」に、「グーン」は「goon(殺し屋、暴漢)」に聞こえる
- 「クリープ」は英語の「creep(気味悪い奴)」に似ており、不適切な印象を与える
- 「ポカリスウェット」の「スウェット」は英語で「汗」を意味し、飲料としては違和感がある
- 三菱の「パジェロ」はスペイン語圏では卑猥な意味を持つため、「モンテロ」に変更された
- 「天空の城ラピュタ」はスペイン語圏では「ラピュタ」が「売春婦」を意味するため、タイトルが変更された
- 英語圏で日本の製品について話す際は、現地での名称を確認して使うことが重要
グローバル化が進む現代では、異文化間のコミュニケーションがますます重要になっています。言語や文化の違いを理解し、適切に対応することが、国際的な相互理解を深めるための第一歩です。
日本語と英語の発音や意味の違いを知っておくことで、海外でのコミュニケーションをよりスムーズに進めることができるでしょう。

