TOEICは世界約160カ国で実施される英語能力測定試験として知られており、就職・転職や昇進、学業など様々な場面で活用されています。近年ではテレワークやオンライン授業の普及、そして新型コロナウイルスの影響もあり、TOEICはオンラインでも受験できるようになりました。しかし、通常の公開テストとはシステムや形式が異なるため、初めて受験する方は戸惑うかもしれません。
本記事では、TOEICのオンライン受験について、通常テストとの違いや効果的な対策方法を初心者向けに詳しく解説します。
TOEICオンライン受験の基本情報

TOEICは2020年からオンラインでの受験が可能になりました。この背景には、世界的なインターネット環境の浸透とコロナ禍における社会情勢の変化があります。公開テスト会場では多くの受験者が集まることによる感染リスクを低減させる必要性も、オンライン受験導入の要因となりました。
現在、オンライン受験が可能なのは「IPテスト」と呼ばれる団体向けテストのみです。IPはInstitutional Program(機関向けプログラム)の略称で、学校や企業などの団体が主催するテストを指します。つまり、個人での申し込みによるオンライン受験はできず、所属する団体がオンラインIPテストを実施する場合にのみ受験可能となります。
対応しているTOEICプログラム
オンライン受験に対応しているのは以下のTOEICプログラムです。
- TOEIC Listening & Reading(L&R)
- TOEIC Speaking & Writing(S&W)
- TOEIC Speaking
- TOEIC Bridge Listening & Reading
- TOEIC Bridge Speaking & Writing
これらすべてのプログラムでオンライン受験が可能ですが、最も受験者数が多いのはTOEIC L&Rテストです。
CATシステムの採用
TOEIC IPテスト(オンライン)では、Computer Adaptive Test(CAT)と呼ばれるシステムが採用されています。これは受験者の能力に合わせてリアルタイムで出題問題が変化するテストシステムです。
リスニングもリーディングもUnit1とUnit2に分かれており、最初のUnit1では全受験者が同じ25問を解き、その正答率に基づいて次のUnit2では受験者個々のレベルに合った問題が20問出題されます。このシステムにより、従来より少ない問題数で効率的に英語力を測定できるようになっています。
オンラインTOEICと通常テストの違い
オンラインのTOEIC IPテストと通常の公開テストには様々な違いがあります。初めて受験する方は以下の違いを理解しておきましょう。
受験料の違い
オンラインIPテストの受験料は4,320円(税込)程度です。一方、通常の公開テストは7,810円(税込)、リピート割引を適用しても7,150円(税込)かかります。経済面から見ると、オンラインIPテストの方が約3,500円安く受験できる点が魅力です。
支払い方法はIPテストの場合、所属団体によって異なるため、主催団体の指示に従う必要があります。

受験時間と問題数の違い
両テスト形式の受験時間と問題数には大きな違いがあります:
項目 | オンラインIPテスト | 公開テスト |
---|---|---|
リスニング | 約25分/45問 | 45分/100問 |
リーディング | 37分/45問 | 75分/100問 |
合計 | 約60分/90問 | 120分/200問 |
オンラインIPテストは公開テストに比べて問題数が半分程度で、受験時間も約半分となっています。ただし、1問あたりの解答時間はほぼ同等です。
受験場所と開始時間の違い
公開テストでは指定された会場に集まり、決められた時間(午前・午後の部)に一斉に試験が始まります。それに対し、オンラインIPテストでは、団体が設定した受験期間内であれば、自宅や指定された場所で24時間いつでも受験することが可能です。
例えば「5月16日9:00~5月20日9:00」といった期間が設定され、その間であれば好きな時間に受験を開始できます。時間や場所の制約が少ないことがオンライン受験の大きなメリットです。
問題形式と難易度の違い
オンラインIPテストで採用されているCATシステムは、受験者の能力に応じて問題が出題されるため、効率的に英語力を測定できます。一方、公開テストでは全員が同じ問題を解きます。
難易度については、IPテストでは過去の公開テストで使用された問題が再利用されることがありますが、TOEICの出題範囲は広いため、実質的な難易度差はあまり感じられないでしょう。
スコアレポートと認定証の違い
最も重要な違いとして、公式認定証が発行されるのは公開テストのみである点が挙げられます。IPテストではスコアレポートは発行されますが、公式認定証は発行されません。
これは就職活動や資格提出の際に影響する可能性があります。全国通訳案内士の試験や大学院入試、公官庁の試験など、公式認定証の提出が必要な場合は、IPテストではなく公開テストを受験する必要があります。スコアの証明が必要な用途に合わせて、適切なテスト形式を選びましょう。
オンラインTOEIC受験の申し込み方法
オンラインTOEICを受験するためには、所属する団体がIPテストを実施していることが前提条件となります。個人で直接申し込むことはできませんので注意が必要です。
申し込みの流れ
- 所属する団体(学校や企業など)がIPテストを実施するかどうかを確認する
- 団体が指定する申し込み方法に従って手続きを行う
- 受験料を支払う(支払い方法は団体ごとに異なる)
- 団体から受験に必要な情報(アクセス方法、ID、パスワードなど)を受け取る
- 指定された受験期間内に試験を受ける
自分の所属する団体がIPテストを実施していない場合は、担当者にIPテスト実施の検討を依頼してみるのも一つの方法です。多くの場合、一定数の受験希望者がいれば実施を検討してもらえることがあります。
必要な準備と環境
オンラインでTOEICを受験するためには、以下の環境を整える必要があります。
- 安定したインターネット接続(有線LANが望ましい)
- カメラとマイク付きのパソコン
- イヤホンまたはヘッドフォン
- 静かで一人で集中できる環境
- 本人確認のための身分証明書
特にインターネット環境は重要で、試験中に接続が途切れるとテストが中断されてしまう可能性があります。可能であれば有線LANを使用するなど、安定した接続環境を確保することをお勧めします。
オンライン受験時のカメラによる監視システム
オンラインIPテストでは、カメラを使用した監視システムが導入されています。これは不正行為を防止し、試験の公平性を保つための重要な仕組みです。
AIによる監視の仕組み
試験中はカメラによる録画が行われ、AIが受験者の行動をリアルタイムで分析します。このシステムは以下のような不審な行動を監視します。
- 複数人の映り込み
- 受験者の入れ替わり
- 目線の動き(画面から離れた場所を見るなど)
- 参考書やスマートフォンを見る行為
AIが不審な動きを検出した場合、人による確認が行われることもあります。この監視システムにより、自宅での受験であっても試験の公平性が保たれています。
カメラ設定と注意点
オンライン受験を始める前に、カメラが正しく設定されていることを確認する必要があります。多くの場合、試験開始前に本人確認のためのカメラチェックが行われます。
受験中は以下の点に注意しましょう。
- カメラの前に座り、顔がはっきりと映るようにする
- 試験中は極力カメラの前から離れない
- 家族などが映り込まないよう、周囲に注意を促しておく
- 部屋の照明を適切に調整し、顔がはっきり見えるようにする
- 周囲に参考書や英語に関する掲示物がないことを確認する
これらの注意点を守ることで、意図せず不正行為と判断されるリスクを減らせます。
オンライン受験でのカンニング対策について
オンラインで自宅から受験できるようになったことで「カンニングができるのではないか」という疑問を持つ人もいるでしょう。しかし、オンラインIPテストではカンニングは実質的に不可能な仕組みになっています。
カンニングができない技術的理由
オンラインIPテストでカンニングが困難な理由は複数あります。
- AI監視システム:先述のとおり、カメラによる監視があり、参考書やスマートフォンを見る行為はすぐに検出されます。
- 時間的制約:特にリスニングパートでは、音声は一度しか流れず、先読みも困難です。何かを調べている間に次の問題に進んでしまい、解答する時間がなくなります。
- CATシステム:受験者ごとに異なる問題が出題されるため、他者の答えを参考にすることもできません。
- 切り替わりの速さ:リーディングパートでも、制限時間内に解答する必要があり、調べ物をしている余裕はほとんどありません。
カンニングすると返って点数が下がる理由
仮にカンニングを試みたとしても、それによってスコアを上げることは難しく、むしろ点数が下がる可能性が高いです。
- 時間のロス:調べ物をしている間に時間が経過し、解答できない問題が増える
- 集中力の低下:カンニングと試験の両方に注意を分散させることで、本来持っている能力を発揮できなくなる
- スコア無効のリスク:不正行為が検出された場合、スコアが無効になる可能性がある
TOEICは英語力を総合的に測定する試験であり、その場しのぎのカンニングよりも、実力をつけることが最終的には最も効果的なスコアアップ方法です。
初心者向けTOEIC対策の基本
TOEIC初心者、特に英語学習を始めたばかりの方は、どのように準備すればよいのか悩むかもしれません。ここでは、効果的なTOEIC対策の基本を紹介します。
英語初学者が最初に取り組むべきこと
英語初学者がTOEIC対策を始める前に、まずは英語の基礎固めを行うことが重要です。
- 中学英語の文法を復習する:英語の基本文法を理解することが土台となります。特に品詞(名詞、動詞、形容詞など)の区別や基本的な文構造を理解しましょう。
- 基本単語を覚える:TOEICで頻出する基本単語(1000〜2000語程度)を学習します。単語帳やアプリを活用して毎日少しずつ覚えていくことが効果的です。
- リスニング力を鍛える:簡単な英語の音声を毎日聞く習慣をつけましょう。TOEICの公式問題集の音声や、英語学習用のポッドキャストなどが役立ちます。
目標スコア別の学習プラン
目標スコアに応じた学習プランを立てることで、効率的に勉強を進めることができます。
【400〜500点を目指す場合】
- 基本単語(約2000語)の習得
- 中学〜高校初級レベルの文法の復習
- 毎日15〜30分のリスニング練習
- TOEIC形式の問題に慣れるための模擬テスト
【600〜700点を目指す場合】
- TOEIC頻出単語(約3000〜4000語)の習得
- 高校レベルの文法の完全理解
- 英語ニュースなど、実践的なリスニング教材の活用
- 各パートの解法テクニックの習得
【800点以上を目指す場合】
- ビジネス英語や専門用語の習得
- 文法の細かいニュアンスの理解
- ネイティブスピーカーの自然な会話に慣れる
- 時間配分を意識した本番形式の模擬テスト練習
効果的な学習リソースの活用法
TOEICの勉強に役立つリソースはたくさんありますが、初心者は以下のようなものから始めるとよいでしょう。
- 公式問題集:TOEICの出題傾向を最も正確に反映しているのは公式問題集です。まずはこれに取り組むことをお勧めします。
- スマートフォンアプリ:隙間時間に単語や文法を学習できるアプリが多数あります。日常的に少しずつ学習するのに便利です。
- オンライン学習サイト:無料または有料のオンライン学習サイトを活用すると、自分のペースで学習を進められます。
- 参考書:初心者は「はじめてのTOEIC」「TOEIC L&Rテスト入門」などの基礎的な内容から始めるとよいでしょう。
TOEIC受験の裏技とスコアアップのコツ
TOEICは英語力だけでなく、テストテクニックも重要な試験です。ここでは、初心者でも使える裏技とスコアアップのコツを紹介します。
正攻法で点数を伸ばすテクニック
- 設問内容を先読みする:特にリスニングパートでは、音声が流れる前に設問に目を通しておくことで、何を聞き取ればよいかを事前に把握できます。ただし、選択肢までは読み切れないので、質問文だけに目を通すのが効率的です。
- 時間配分を工夫する:リーディングセクションでは、各パートにかける時間を事前に決めておくとよいでしょう。特に長文問題は時間がかかるため、最初の簡単なパートを素早く解き、後半に時間を残すように心がけましょう。
- 消去法を活用する:わからない問題に出会ったら、明らかに間違っている選択肢から消去していくことで、正解の可能性を高められます。
出題形式を理解して時間を有効活用する方法
TOEICの各パートには特徴があり、それを理解することで効率的に解答できます。
【リスニングパート】
- Part 1(写真描写問題):写真をよく見て、人物の動作や状況を予測しておく
- Part 2(応答問題):質問のパターンを覚えておき、典型的な返答を予測する
- Part 3・4(会話・説明文問題):設問をしっかり先読みし、キーワードをメモする
【リーディングパート】
- Part 5(短文穴埋め問題):文法知識を活用し、前後の文脈から品詞や時制を判断
- Part 6(長文穴埋め問題):段落全体の流れを把握し、接続詞や代名詞の関係性に注目
- Part 7(読解問題):まず設問を読んでから本文を読み、キーワードを探す
初心者でも使える解答裏技
- 解けない問題は潔く諦める:特にリーディングパートでは、すべての問題に時間をかけず、わからない問題はマークして後回しにするか、諦めて次に進むことも大切です。
- パターン認識を鍛える:TOEICは繰り返し出題されるパターンがあります。模擬試験を繰り返し解くことで、典型的な問題パターンを認識する力が身につきます。
- 聴き取りやすい単語に注意する:特にリスニングでは、聴き取りやすい単語が選択肢にある場合、それは「ダマシ」の可能性もあります。内容全体をしっかり理解することが重要です。
TOEICテストの日程と計画的な受験
計画的にTOEIC受験を進めるためには、テスト日程を把握し、十分な準備期間を確保することが重要です。
2025年のTOEIC公開テスト日程
2025年のTOEIC公開テスト(L&R)の主な日程の一部は以下の通りです。
試験日 | 受付時間 | 認定証発行予定日 |
---|---|---|
2025年3月1日(土) | 午前:9:25~9:55 午後:14:05~14:35 | 2025年3月20日(木) |
2025年3月16日(日) | 午前:9:25~9:55 午後:14:05~14:35 | 2025年4月3日(木) |
2025年4月20日(日) | 午前:9:25~9:55 午後:14:05~14:35 | 2025年5月9日(金) |
2025年5月18日(日) | 午前:9:25~9:55 午後:14:05~14:35 | 2025年6月5日(木) |
公式認定証が必要な場合は、提出期限から逆算して受験日を選ぶことが重要です。認定証が手元に届くまで約1ヶ月かかることを考慮しましょう。

オンラインIPテストの受験期間の考え方
オンラインIPテストは、団体が設定した期間内であれば自由に受験できます。この柔軟性を活かし、以下のような戦略で受験時期を選ぶとよいでしょう。
- コンディションのよい時間帯を選ぶ:自分が最も集中できる時間帯(朝型の人は朝、夜型の人は夜など)に受験する
- 周囲が静かな環境を確保できる時間を選ぶ:家族がいない時間帯や、近隣の騒音が少ない時間帯を選ぶ
- 十分に準備ができてから受験する:受験期間の初日に焦って受験するのではなく、期間内で準備が整った時点で受験する
効果的な受験計画の立て方
TOEICで目標スコアを達成するためには、長期的な視点で計画を立てることが大切です。
- 目標設定:まずは3ヶ月後、6ヶ月後、1年後の目標スコアを設定する
- 現状把握:模擬テストなどで現在の実力を把握し、弱点を特定する
- 学習計画:弱点を中心に、毎日の学習内容と時間を具体的に計画する
- 定期的な実力チェック:1〜2ヶ月に一度はTOEICを受験するか模擬テストを行い、進捗を確認する
- 計画の修正:実力チェックの結果に基づき、必要に応じて学習計画を修正する
初心者の場合、最初は2〜3ヶ月の集中学習後に一度受験し、その結果をもとに次の学習計画を立てるというサイクルがおすすめです。
TOEICのオンライン受験に関するよくある質問
TOEICのオンライン受験に関してよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
- 個人でもオンラインTOEICを受験できますか?
-
現時点では、個人での申し込みによるオンライン受験はできません。オンライン受験が可能なのはIPテスト(団体受験)のみです。学校や会社などの団体が主催するIPテストに参加する形でのみオンライン受験が可能です。
- オンラインIPテストのスコアは就職活動で使えますか?
-
企業によって対応は異なります。多くの企業ではIPテストのスコアレポートも有効ですが、公式認定証の提出を求める企業もあります。その場合は公開テストを受験する必要があります。就職活動での使用を検討している場合は、応募先の企業の要件を事前に確認することをお勧めします。
- オンライン受験中にインターネットが切断された場合はどうなりますか?
-
基本的には中断したところから再開できるケースが多いですが、団体によって対応が異なる場合があります。長時間にわたる切断や複数回の切断が発生した場合、テストが無効になる可能性もあります。安定したインターネット環境を確保することが重要です。
- カメラの前で不自然に動いたら不正行為と判断されますか?
-
ちょっとした動きが即座に不正行為と判断されることはありませんが、長時間カメラの外に出る、目線が頻繁に画面外に向く、別の人が映り込むなどの行動は不審と判断される可能性があります。自然な姿勢で集中して受験することを心がけましょう。
- オンラインIPテストと公開テストでは難易度に違いがありますか?
-
基本的な難易度に大きな違いはないとされています。IPテストでは過去の公開テストの問題が使われることがありますが、TOEICの出題範囲は広いため、実質的な難易度差はあまりないでしょう。
- オンラインIPテストの受験時間は調整できますか?
-
オンラインIPテストの受験時間自体は固定されていますが、開始時間は団体が設定した受験期間内であれば自由に選ぶことができます。ただし、一度開始すると途中で中断して後日続きから再開することはできないため、約60分の連続した時間を確保できるタイミングで受験する必要があります。
まとめ

TOEICのオンライン受験についての主なポイントをまとめます。
- TOEICのオンライン受験は現時点ではIPテスト(団体受験)のみ可能で、個人での申し込みはできない
- オンラインIPテストは公開テストと比べて受験料が安く(約3,500円安)、試験時間も短い(約半分)
- オンラインIPテストではCATシステムが採用されており、受験者の能力に応じた問題が出題される
- オンライン受験ではカメラによる監視システムがあり、不正行為は検出される
- カンニングは技術的に困難であり、試みると返って点数が下がる可能性がある
- 公式認定証が必要な場合は公開テストを受験する必要がある
- 初心者は基礎からコツコツと学習し、テストテクニックも併せて身につけることが重要
- 計画的な受験と定期的な実力チェックで、効率的にスコアアップを目指せる
TOEICのオンライン受験は、時間や場所の制約を受けずに受験できる便利な選択肢です。ただし、用途や目的に応じて公開テストとの違いを理解し、適切な形式を選ぶことが重要です。初心者の方もこの記事で紹介した基本知識とテクニックを活用して、効果的にTOEIC対策を進めてください。
最終的には、どの形式で受験するにせよ、日々の継続的な学習が英語力向上の鍵となります。短期的なテクニックだけでなく、長期的な視点で英語学習に取り組むことで、TOEICスコアだけでなく実践的な英語力も身につけることができるでしょう。