英語のスキルを証明する方法としてTOEICとIELTSは世界的に広く知られている試験です。日本では特にTOEICが人気ですが、海外留学や移住を考える人にとってはIELTSの重要性も高まっています。初めて英語試験を受けようと考えている方にとって、「TOEICとIELTSはどう違うの?」「どちらを受けるべき?」といった疑問を持つことは自然なことです。
本記事では、TOEICとIELTSの基本的な違いから、スコアの換算方法、さらには初学者がどのように取り組むべきかまで詳しく解説します。
TOEICとIELTSの基本情報

英語の資格試験と一言で言っても、その目的や形式は様々です。まずはTOEICとIELTSの基本的な特徴を理解しましょう。
TOEICとIELTSは、どちらも英語能力を測る国際的な試験ですが、目的や評価方法には大きな違いがあります。それぞれの特徴を知ることで、自分の目標に合った試験を選ぶことができます。
TOEICとは
TOEICは「Test Of English for International Communication」の略称で、日常生活やビジネスシーンでの英語によるコミュニケーション能力を測定するテストです。日本では就職活動や企業内での昇進・昇格の際の英語力証明として広く活用されています。
TOEICには複数の種類があり、最も一般的なのが「TOEIC Listening & Reading Test」(以下、TOEIC L&R)です。これは「聞く」「読む」の2技能を測定し、990点満点で評価されます。また、「話す」「書く」能力を測る「TOEIC Speaking & Writing Tests」も存在します。
TOEIC L&Rは約2時間の試験で、リスニングセクション(45分)とリーディングセクション(75分)から構成されています。問題はすべて選択式で、合計200問の問題に解答します。

IELTSとは
IELTSは「International English Language Testing System」の略称で、英語圏の国々への留学や移住を希望する人のための英語力測定テストです。特にイギリス、オーストラリア、カナダなどの英語圏の大学進学や移住申請に広く利用されています。
IELTSには主に2つのモジュールがあります。
- アカデミックモジュール:英語圏の大学や大学院への留学を希望する人向け
- ジェネラルモジュール:英語圏への移住を希望する人向け
どちらも「聞く」「読む」「話す」「書く」の4技能すべてを測定します。評価は1.0から9.0までの0.5刻みで行われ、各技能のスコアと全体の平均スコア(オーバーオールスコア)が示されます。
IELTSの試験時間は約3時間で、リスニング(40分)、リーディング(60分)、ライティング(60分)は一度に実施され、スピーキング(11〜14分)は別日程で行われることもあります。
TOEICとIELTSの主な違い
両試験の基本情報を確認したところで、より詳しい違いについて見ていきましょう。目的や内容、評価方法など、様々な観点から比較します。
試験の目的と用途の違い
TOEICとIELTSは、そもそも試験の目的が異なります。
TOEICは主にビジネスシーンで使われる英語コミュニケーション能力を測るテストです。日本の企業では採用や昇進、社内での英語力評価の基準としてよく使われています。また、国内の大学入試や単位認定にも活用されることがあります。
一方、IELTSは主に海外留学や海外移住のための英語力証明として使われます。特に英国連邦諸国(イギリス、オーストラリア、カナダなど)の大学入学や移民申請には、IELTSのスコアが求められることが多いです。
つまり簡単に言えば、
- TOEICは「就職や昇進のため」の英語試験
- IELTSは「留学や移住のため」の英語試験
という位置づけになります。
試験内容と形式の違い
試験の内容と形式も大きく異なります。
TOEICのL&Rテストは2技能(リスニングとリーディング)のみを測定し、すべて選択問題です。ビジネスや日常生活の場面を想定した問題が出題されます。
一方、IELTSは4技能すべてを測定します。リーディングとリスニングは選択問題や記述式、スピーキングは面接官との対話形式、ライティングはエッセイを書く形式です。アカデミックモジュールでは学術的な内容が、ジェネラルモジュールでは日常生活に関する内容が中心となります。
IELTSの問題の特徴
- リーディング:長文読解や図表の理解など
- リスニング:会話や講義の理解など
- ライティング:図表描写や意見を述べるエッセイなど
- スピーキング:自己紹介、身近な話題についての会話、特定のテーマについての発表など
TOEICのL&Rの問題の特徴
- リスニング:短い会話、説明文、アナウンスなどの理解
- リーディング:ビジネス文書、広告、Eメールなどの理解
採点方法とスコアの違い
採点方法とスコアの表示方法も異なります。
TOEICのL&Rテストは990点満点で、10点刻みの得点が与えられます。リスニングとリーディングそれぞれ495点満点で、合計点が最終スコアとなります。
IELTSは9.0満点で、0.5点刻みのバンドスコアで評価されます。リスニング、リーディング、ライティング、スピーキングの4技能それぞれにスコアが付き、その平均値がオーバーオールスコアとなります。
また、TOEICは統計処理によってスコアが算出され、同じ英語力であればどの回を受験しても一定のスコアが出るように調整されています。一方、IELTSは各技能ごとに評価基準が設定されており、その基準に基づいてスコアが決まります。
TOEICとIELTSのスコア比較と換算表
TOEICとIELTSはスコアの出し方が異なるため、直接比較することは難しいですが、おおよその換算表が存在します。ここでは、両者のスコアがどのように対応するのかを見ていきましょう。
CEFRとの関連性
TOEICとIELTSのスコアを比較する際に便利なのが、ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR:Common European Framework of Reference for Languages)です。CEFRは言語能力を6段階(A1、A2、B1、B2、C1、C2)で評価する国際的な基準です。
CEFRの各レベルの概要
- A1・A2:基礎段階の言語使用者
- B1・B2:自立した言語使用者
- C1・C2:熟達した言語使用者
TOEICとIELTSのスコアは、それぞれCEFRのどのレベルに相当するかが示されています。例えば:
- TOEIC 120-220点:CEFR A1レベル
- TOEIC 225-545点:CEFR A2レベル
- TOEIC 550-780点:CEFR B1レベル
- TOEIC 785-940点:CEFR B2レベル
- TOEIC 945点以上:CEFR C1レベル
- IELTS 3.0:CEFR A2レベル
- IELTS 4.0-5.0:CEFR B1レベル
- IELTS 5.5-6.5:CEFR B2レベル
- IELTS 7.0-8.0:CEFR C1レベル
- IELTS 8.5-9.0:CEFR C2レベル
CEFRを介することで、TOEICとIELTSのスコアを間接的に比較することができます。
TOEICとIELTSのスコア換算表
実際のTOEICとIELTSのスコア換算表を見てみましょう。これはあくまで目安であり、試験の性質の違いから完全に一致するものではありません。
IELTS | TOEIC (L&R) |
---|---|
9.0 | – |
8.5 | – |
8.0 | – |
7.5 | 970-990 |
7.0 | 870-970 |
6.5 | 820-870 |
6.0 | 740-820 |
5.5 | 600-740 |
5.0 | 550-600 |
4.5 | 500-550 |
4.0 | 450-490 |
3.5 | 300-440 |
3.0 | 290-300 |
この表から分かるように、IELTSの高いバンドスコア(8.0以上)はTOEICでは換算できないほど高いレベルを示しています。TOEICの満点である990点でもIELTSでは7.5程度に相当し、IELTSの9.0は非常に高い英語力を示していることが分かります。
TOEICとIELTSの各スコアレベルの意味
各スコアレベルが実際の英語能力としてどのような意味を持つのか、簡単に説明します。
TOEICスコアの意味
- 400点未満:基礎的な英語力。簡単な日常会話や文章の理解ができる程度。
- 400-600点:日常会話はある程度こなせるが、ビジネスシーンでは苦労する。
- 600-800点:ビジネスでも使える実用的な英語力。一般的な業務なら対応可能。
- 800点以上:高い英語力。専門的な内容や複雑な交渉も問題なくこなせる。
IELTSバンドスコアの意味
- 4.0以下:限定的な英語力。基本的なコミュニケーションのみ。
- 5.0-6.0:中程度の英語力。日常生活や一般的な仕事場面では対応可能。
- 6.5-7.5:優れた英語力。大学での学習や専門的な仕事が可能。
- 8.0以上:非常に高い英語力。母語話者と遜色なく英語を使いこなせる。
初学者はどちらを選ぶべきか
英語の学習を始めたばかりの方や、初めて英語資格試験を受ける方は、どちらの試験を選ぶべきでしょうか。ここでは、目的別の選び方と初学者向けの勉強法を紹介します。
TOEICとIELTSの目的別の選び方
試験選びで最も重要なのは、「なぜ英語の資格が必要なのか」という目的です。
日本国内での就職や昇進のためなら
国内の就職活動や企業内での評価のためであれば、TOEICがおすすめです。多くの日本企業ではTOEICのスコアを採用や昇進の基準として採用しています。特に具体的な使用目的がない場合は、まずはTOEICからスタートするのが一般的です。
また、TOEICはL&Rテストだけであれば選択問題のみなので、初学者にとっても取り組みやすい試験です。
海外留学や移住を考えているなら
海外の大学や大学院への留学、または海外移住を考えている場合は、IELTSが必要になることが多いです。特にイギリス、オーストラリア、カナダなどへの留学・移住ではIELTSのスコアが求められます。
ただし、IELTSは4技能すべてを測定し、記述式や面接形式もあるため、ある程度の英語力がないと高スコアを取ることは難しいです。英語初学者の場合は、まずTOEICなどで基礎力を養ってからIELTSに挑戦するという段階的なアプローチも効果的です。
TOEICとIELTSの初学者向けの勉強法
英語初学者がTOEICやIELTSの勉強を始める際のおすすめの方法を紹介します。
TOEIC初学者の勉強法
- まずは現在の実力を知る
公式問題集や模試を活用して、自分の現在のレベルを把握しましょう。 - 基礎英語力の強化
中学・高校レベルの英単語や文法を確実にマスターします。特に英単語は頻出単語から覚えていきましょう。 - リスニング力の強化
毎日少しずつでも英語を聞く習慣をつけましょう。TOEICの公式問題集のCDや、オンライン教材を活用するのがおすすめです。 - 問題形式に慣れる
TOEICの問題形式は独特なので、公式問題集で形式に慣れることが大切です。初学者は600点を目標にすると良いでしょう。
IELTS初学者の勉強法
- 英語の基礎力を固める
IELTSに挑戦する前に、英検準1級程度(TOEIC 700点以上)の英語力を身につけておくと効果的です。 - 実力診断
IELTSの無料公式模試や公式問題集を解いてみて、現在の実力を確認しましょう。 - 4技能をバランスよく学習
リーディング、リスニング、ライティング、スピーキングをバランスよく学習することが重要です。特にライティングとスピーキングは練習が必要です。 - アカデミックな英語に触れる
IELTSアカデミックモジュールを受ける場合は、学術的な文章や講義に多く触れるようにしましょう。ジェネラルモジュールの場合は、日常的な英語表現を学びます。 - 段階的な目標設定
初めてIELTSを受ける場合は、まずはスコア5.0-5.5を目標にするとよいでしょう。
TOEICとIELTSに関するよくある質問
ここでは、TOEICとIELTSに関するよくある質問にお答えします。
- TOEICとIELTSはどちらが難しいですか?
-
一般的に、IELTSの方が難易度は高いと言われています。理由としては、
- IELTSは4技能すべてを測定するのに対し、TOEIC L&Rは2技能のみ
- IELTSには記述式や面接形式があり、単なる知識だけでなく実践的な英語力が必要
- IELTSの高スコア(8.0以上)はTOEICでは換算できないほど高いレベル
ただし、「難しい」という感覚は個人の英語学習背景や目標によって異なります。例えば、英会話に慣れている人はスピーキングがあるIELTSの方が得意かもしれません。
- TOEICの勉強をしていれば、IELTSにも対応できますか?
-
部分的には対応できますが、完全に対応できるわけではありません。TOEICの勉強で培ったリスニングやリーディングの力はIELTSでも活かせますが、IELTSで必要なライティングやスピーキングの力は別途訓練が必要です。
また、出題される内容も異なります。TOEICはビジネスシーンが中心ですが、IELTSアカデミックは学術的な内容が中心です。TOEICで高得点を取れる人でも、IELTSで同等のスコアを取るには追加の学習が必要になることが多いです。
- 初心者はまずどちらを受けるべきですか?
-
英語初学者の場合、まずはTOEICから始めることをおすすめします。理由は、
- 問題形式が選択式のみで取り組みやすい
- 日本国内での認知度が高く、就職や昇進に役立つ
- 短期間で基礎的な英語力を測定できる
ある程度英語力がついてきたら、必要に応じてIELTSにチャレンジするという段階的なアプローチが効果的です。
- TOEICとIELTSの勉強法は違いますか?
-
はい、それぞれの試験特性に合わせた勉強法があります。
TOEICの勉強では、
- ビジネス英語や日常英会話の語彙を増やす
- リスニングのスピードと正確さを高める
- 文法問題の解き方に慣れる
- 時間配分の練習をする
IELTSの勉強では、
- アカデミックな語彙や表現を学ぶ
- エッセイの書き方を練習する
- スピーキングの流暢さや発音を改善する
- 図表や統計データの説明方法を学ぶ
- TOEICとIELTSはどのくらいの頻度で実施されていますか?
-
TOEICは日本国内で月に1〜2回程度実施されており、比較的頻繁に受験機会があります。
IELTSは月に3〜4回程度、主要都市で実施されています。TOEICほど頻繁ではありませんが、計画的に受験することは可能です。
- TOEICとIELTSのスコアの有効期限はどのくらいですか?
-
TOEICのスコアには公式な有効期限があり、2025年1月現在、TOEIC公式サイトではスコアの有効期限を2年と設定しています。ただし、企業や教育機関によっては独自の有効期限を設定していることもあります。各機関の方針に基づいて2年を超えるスコアの提出が認められる場合もあるため、提出先の規定を確認することが重要です。
IELTSのスコアの有効期限は公式に2年と定められています。留学や移住の申請では、申請時点で2年以内のスコアが求められることが多いです。
これらの修正は、最新の公式情報に基づいています。TOEICに関する情報は特に近年変更があったため、常に最新の公式情報を確認することをお勧めします。
まとめ

本記事では、TOEICとIELTSの違いについて詳しく解説してきました。以下に主なポイントをまとめます。
- 試験の目的の違い
- TOEICはビジネスでの英語コミュニケーション能力を測定
- IELTSは留学や移住に必要な英語力を測定
- 試験形式の違い
- TOEICはリスニングとリーディングの2技能(L&Rの場合)
- IELTSはリスニング、リーディング、ライティング、スピーキングの4技能
- スコア評価の違い
- TOEICは10〜990点の範囲で評価
- IELTSは1.0〜9.0の範囲で0.5刻みで評価
- 難易度の違い
- IELTSの方が総合的に難易度が高い
- IELTSの高スコア(8.0以上)はTOEICでは測定できないレベル
- 初学者へのアドバイス
- 目的に応じて試験を選ぶ
- 基礎的な英語力をつけてからIELTSに挑戦する
- TOEICとIELTSで異なる勉強法を取り入れる
どちらの試験も、英語力を測定し、向上させるための有効なツールです。自分の目標や現在の英語レベルに合わせて、適切な試験を選び、効果的に学習を進めていきましょう。英語力の向上は一朝一夕には実現しませんが、継続的な学習を通じて、確実に力をつけていくことができます。
TOEICで600点、IELTSで5.5といった具体的な目標を設定し、そこから段階的にスコアアップを目指していくことをおすすめします。初学者の方も、焦らず着実に学習を積み重ねていけば、必ず目標に到達できるはずです。